小学1年生から英語の授業が始まる時代となり、乳幼児期から英語を学ばせたいと考える親も増えてきました。
そこで、今回は早期英語教育のメリットやデメリットについて解説していきます。
以前は、早期英語教育とは中学から始まる英語の授業に備えるための小学生での英語学習のことをさしていましたが、小学校での英語教育が必修化されたため、最近では生後数ヶ月の赤ちゃんから6歳ごろまでの早い段階に英語教育をすることを早期英語教育とよぶようになってきています。
まず、早期英語教育のメリット5つをご紹介します。
早期教育の対象となる0 歳から6 歳は、人生において脳の発達が最も盛んな時期でもあります。スキャモンの発達・発育曲線によると、人間の神経系は出生直後から急激に成長し、6歳ごろまでに脳神経細胞の90%が形成されるといわれています。つまり、この期間はスポンジのように新しいことをどんどん吸収する力があり、英語をよく使う環境を整えてあげることで子どもたちは英語を英語のまま理解することができる英語脳を発達させ、自然と英語を身に着けることができるようになります。
逆に脳細胞の数が十分に増えた6歳以降になると、今度は脳の細胞と細胞をつなぐ情報伝達回路の形成が活発化し、蓄積した知識を関連付ける能力が向上してきます。その過程で脳神経細胞の選択が始まり、日常生活に必要のない脳細胞は死滅していくこととなります。
赤ちゃんのころは世界中の言語の周波数を聞き分ける能力を持っているのに、加齢とともに、母国語以外の周波数は聞き分けることができなくなっていくという現象も、成長の過程での人間の取捨選択の結果というわけです。
早期教育によって、発音にはどのようなよい影響があるでしょうか。
大人になると正しい発音を知らない英単語は、ついついカタカナ英語に逃げて和声イングリッシュで発音してしまったりします。ネイティブらしい発音をするというのは少し気恥ずかしいものでもあり、他人の目を気にする日本人らしさが英語習得のハードルをあげている1つの要因にもなっています。しかし、小さいうちであれば聞いたままの音声を素直に再現できるので、ネイティブに近い発音を獲得しやすくなります。「発音のことはあまり気にしないで、とにかく勇気をだしてどんどん英語をしゃべりなさい」と、学童期の生徒たちには教えていますが、それでも、世界で通用する英語を習得したいのであれば、洗練された発音を身につけておくに越したことはありません。美しい言葉を話せるということは、将来キャリア形成の過程で英語を話すコミュニティーに属した時によりスムーズに自分の立ち位置を確立する大きな助けとなってきます。
発音はもとより、発声の仕方も日本語と英語ではまったく異なります。日本語が口先だけでぼそぼそ話すのに対し、英語は腹式呼吸を使ってお腹から声を出して発声します。
解剖学的に言うと、日本語を発話するときは声帯が狭まった状態で口元の動きをかえるだけで音声の違いをだしますが、英語の発話の場合は、声帯を緩ませた状態で肺から空気をだし、声帯に共鳴させることで音を形成しています。息を吸って空気を肺にためてそれを吐き出すときに声を出すというイメージです。また、日本語が5つの「あ・い・う・え・お」の母音×子音の組み合わせなのに対し、英語にはもっと多くの母音と子音の組み合わせが存在するため、舌や口の形や動きも、より豊富に複雑に存在します。
この口・舌の動かし方や声帯の開き方は幼少期から見よう見まねで訓練していくものです。思考も筋肉も柔軟な赤ちゃんはどんな言語の発声、発音方法にも適応できる能力をもちあわせていますが、年齢とともに、口・舌・喉の筋肉の使い方が日本語用オンリーに固定され、日本語の発音に必要のない筋肉は退化していきます。大人になっていきなり「はい、お腹から声を出して~、口をとがらせて~、舌を奥に巻いて・・・」なんていわれても、頭では理解しても、それに対応した動きは習慣としてはなかなか身につかないものです。
特に、男の子は女の子にくらべて、声帯周辺の筋肉が固まるのが早いと言われており、男の子の方が、発音の観点からも早期英語教育をしてあげる必要性が高いといわれています。
赤ちゃんは、生まれたころは視力が0.01~0.02と弱く、胎児のころから備わっている聴力によって、自分が生きて行く世界で学ぶべきものかどうかを取捨選択する作業を始めていきます。前述したように、生まれたばかりの赤ちゃんは世界中の言語を聞き分ける能力が備わっているといわれており、日本人の赤ちゃんも生後8か月ごろまではLとRの聞き分けが出来るのに、生後10か月になると聞き分けができなくなってしまうという研究結果も発表されています。
(参照: Early Language Learning and Literacy: Neuroscience Implications for Education - PMC (nih.gov)
さらにこの研究では、赤ちゃんが聞いていた音源の違いによって聞き分け能力の差異がでるという検証も行っています。赤ちゃんが聞いていた音源が人間の生の声か、テレビ画面を通じての音声かということで、赤ちゃんの第2言語の聞き分けの能力に差がでており、このことから、赤ちゃんは自ら音を分析し、社会生活で必要ない機能は削っていく作業をしているということがわかります。簡単にいうと、日本の赤ちゃんは生まれて10か月で「日本で生きていくのにLとRを区別する必要はない」と統計分析し、無駄な能力は捨てるという行動をとっているのです。
つまり、英語は大きくなってからでも勉強はできますが、LとRの音を聞き分けたり、スピードの早い英会話に追い付いていくには、自ら捨ててしまった脳の機能を復活させなければならず、失ったものを取り戻すには相当の訓練を積まなければならないことが私たちの経験からもわかってくることと思います。
そのため、小さなころから英語や英会話に触れ合って、「英語耳」を育み維持することが大きなメリットになってくるのです。
恥の文化といわれる日本では、協調性を重んじるばかりに、「間違ってたらどうしよう、発音が変だと周りに思われたらどうしよう」というネガティブな思考が学童期以降の英語習得の大きな壁になっています。
0歳から6歳の早期教育の年齢であれば、まだ恥ずかしさも少ないので間違うことを気にすることなく英語をたくさん使って身につけていくことができます。
また、小さい頃から外国人講師と触れ合うことで、外国人や外国文化に対しての抵抗や偏見が減り、日本人であることを卑下することも誇示することもなく国際社会の一員として普通にふるまうことができるようになります。
また、小・中学校に入ると、英語教育は科目として学習しなければいけないものとなります。義務教育としての英語は、科目として点数で優劣をつけられてしまうため、英語を「やらされた」というマイナスのイメージを抱いてしまう人を増やしています。このような背景があって、中学から高校まで6年間も英語を学んでいるにも関わらず、日本人の多くが英語を話せないという現状があるのです。
勉強という意識が芽生える前の0歳から6歳の間に英語を聞いたり話したりするのは「あたりまえのこと」として触れさせてあげることが英語習得の大きなポイントとなってくるのです。
幼い頃に「あたりまえのこと」としてストレスなく身に着けた英語は、ポジティブなイメージになるため、成長し科目として評価される学童期の英語学習に移行しても苦手意識を抱くことなく、意欲的に取り組むことができる可能性も高くなります。
ここまで早期英語教育のメリットをお話ししましたが、一方で幼い頃から英語を学ぶ環境に置くことには、賛否両論があり、反対の意見があることも事実です。
ここでは早期英語教育で懸念されている問題点を3つ挙げていきます。
まず、「セミリンガル」という問題があげられます。セミリンガル とは、複数言語で育った人が両方とも年齢相応の言語能力まで伸びていない状態のことを指します。日常会話レベルでは日本語も英語でもコミュニケーションできるバイリンガルにみえますが、学習能力や論理的思考能力に関しては日本語でも英語でも、他の同じ年齢の子に比べて劣ってしまう状況のことです。
海外赴任されているご両親をもつお子さんで、お姉さんは英語も日本語も完璧なのに、弟さんは英語も日本語もどっちつかずといった兄弟間での格差を悩みとして抱えていらっしゃるご家族が時々いらっしゃいますが、それは、脳の発達のどの段階で現地のインターナショナルスクールで英語での生活をしていたか、そしてどのタイミングで日本にもどってきたかによる違いです。
母国語の土台が完成しないうちに、第2外国語を浴びて、また、第2外国語の習得が中途半端な時期に母国にもどってしまうと、セミリンガルの状態に陥ってしまう危険性が高まります。
ですが、日本で子育てをする場合は、そこまで心配する必要はありません。幼稚園、小学校とインターナショナルスクールに通い英語を使う学校生活が当たり前で、且つ、家庭でも親子の会話として日本語をあまり使わないといった特別な環境のお子様以外は、セミリンガルになることはまずないといっていいでしょう。義務教育で思考力の土台である日本語は日常的に伸びていくので、母国語としての日本語習得を危惧する必要はありません。過度に英語に溢れる環境に置かれなければ第二言語は母国語以上に発達することはないのです。
幼い頃から英語を学ぶ環境に置かれることを優先するあまり、日本人としてのアイデンティティーや文化に対しての知識が薄まってしまうという懸念もあります。
しかし、アイデンティティとは言語の学習の有無というよりは、学校や家庭での会話や環境によって育まれ、伝統として受け継がれていく民族の概念であるので、早期英語教育とは一線を画して考えるべき課題です。
逆に、これからの国際社会において、いろいろな文化を知るという意味で、英語教育を通じて学ぶことも多く、また、日本のことを改めて知るきっかけにもなり、これらは、現場の教師の力量によるところが大きくなるため、早期英語教育を指導する親や講師が教え方について考えなければならない項目となります。
早期英語教育で最も注意すべきことは、親御さんが英語教育に熱心になりすぎて、英語をお子さんが嫌がるようになってしまうことです。お子さん本人にやる気がないのに無理に押し付けてしまうと、英語に対して嫌悪感を持たせてしまう可能性もあります。また、両親の期待が子どもにはプレッシャーとなってしまうことも考えられます。
英語をもっと知りたい、話したい!とお子さん自身が意欲的に取り組めるよう、親御さんは心にゆとりを持ちながら、笑顔でお子さんと接しましょう。まずは遊びを通して楽しく英語を学べる環境作りから始めていきましょう。
また、メリット3で述べたように、人の生の声で語りかけてあげるほうが効果が高いので、ご家庭ではDVDやCDをかけ流すのではなく、直接、親御さんの肉声で英語で語りかけてあげることが重要になってきます。
お子さんに英語を学ばせる前に、まずは、親御さんが英語を学ぶことが、早期英語教育の成功の秘訣でもあります。親子で楽しく取り組むこと、何より親が笑顔で語りかけることがお子さんにとっての最高の脳の刺激となります。
最近では、早期英語教育の中でも「イマージョン教育」というものが注目されています。
イマージョン=immersion とは「浸かる」という意味で、その名の通り英語環境にお子さんたちをどっぷりと浸からせる教育法の一つです。
では、イマージョン教育のメリットはどのようなものなのでしょうか。
お子さんが日本語を覚えようとするのは、他者の話を聞いたり自分の話を話したりする、というコミュニケーションのためです。イマージョン教育では幼稚園や保育園などでの日常会話をすべて英語で行い、歌やダンス、かけっこなどのレクリエーションの場面でも英語を使います。それはネイティブの子どもがコミュニケーションの手段として母国語を覚えようと
する姿勢とそっくりです。
このように、英語100%のイマージョン教育の環境下では、ネイティブの英語講師やお子さん同士でコミュニケーションを取る上で必然的に英語を使うようになるので、より英語習得が効率的に行われると考えられています。特に幼児期においては「Hello!」「Here you are.」などの簡単な表現を自然と理解できるようになり、英語を効率的に吸収できるようになると言われています。
脳が柔らかく、もの事の吸収の著しい乳幼児期にイマージョン教育をする効果は十分にあると言えるでしょう。
中学高校、人によっては大学も含め6年以上も英語を学んできたにもかかわらず英語が満足に話せない自分を作った日本の教育とはいったい?と疑問を持つ親御さんも多いでしょう。
文部科学省はその問題を深刻なものと捉え、対応策として、読み書きではなくコミュニケーションに重点を置いた新しい英語教育の拡充を目指し、2020 年から新学習指導要領による小学校の英語学習が必修化されました。
小学3年生から4年生は外国語活動として週1コマ、「聞く」「話す」を中心に取り上げ、英語をコミュニケーションツールとして親しめるカリキュラムとなっています。
5年生から6年生は週2コマ、教科として学び、「聞く」「話す」に加えて、「読む」「書く」学習が加わり、英語でのコミュニケーションの基礎を作っていきます。とはいえ、実際には、教える講師の英語レベルの問題等々、成果を上げるまでには、まだまだ課題が残っています。
2020年から小学校の英語教育が始まった日本ですが、世界各国の英語教育はどうなっているのでしょうか。経済発展の著しいアジア地域では、かなり前から早期英語教育が始まっています。さらに、ヨーロッパなどの元々英語力が高い国でも、早期英語教育に力を入れている様子が見えてきます。
ドイツは2021 年のTOEICスコアが826 点(日本は531 点)と非常に高い英語力を誇っています。2003 年から、小学校1〜3 年生で(州によってバラつきあり)英語が必修化となり、「聞く」「話す」のコミュニケーションを中心とした英語教育が行われています。ドイツ語と英語はともにゲルマン語族であり構造が似ていること、ユーロ圏内で人の流動性が高く、多言語に触れる機会も多いことも英語力の高さに貢献していると思われます。
ヨーロッパの小国であり教育先進国として名高いオランダですが、なんと国民の94%がバイリンガル(オランダ語と外国語)であると言われています。早期英語教育も盛んで、2011 年からは小学校3 年生からの英語が必修となっています。さらに2014 年以降、授業の30〜50%を外国語(主に英語)で行うバイリンガル授業が試験的に導入されているようです。
EF EPI スコアで中国は「標準的」の49 位となっています。
教育熱心な親御さんも多く見られる中国では、2001 年から小学校での英語教育が義務化され、2005 年に小学校3年生 からの英語が必修化されました。授業内容も、より実践に即した「聞く」「話す」のコミュニケーションを重視した内容になっているようです。
TOEIC L&Rスコアは678 点と高く、アジア地域では英語が公用語であるフィリピンに次いで2位です。少し前までは日本と同じく英語は勉強しても話せない、といったような状況でしたが、小学校での英語必修化は1997年からと、かなり早い段階から実施されています。特に近年、海外市場をターゲットにしたビジネス展開がなされることが多く、必然的に英語で戦うことを念頭に置いた英語教育がなされてきたためと思われます。
早期英語教育において親は具体的にどのようなことをすればよいのでしょうか。
英語を早期に学んでも母国語である日本語の能力を上回ることは無いと言われています。
逆に考えると、母国語である日本語での論理的思考能力の限界が、英語での限界にもなります。つまり英語のコミュニケーション能力を上げるには、まずは日本語のコミュニケーション能力を上げることが前提条件になるのです。ご家庭では豊かな日本語の表現に触れることを意識してみたり、日本文化に触れるアクティビティを取り入れるなどして日本語での論理的思考能力を高めるための親子の会話を増やしていく努力をしていきましょう。
それぞれのご家庭の方針の範囲内で構いませんので、英語版のアニメを観たり、英語の絵本を読むなどの機会を設けましょう。一つの言語を身につけるには約2,000時間が必要と言われています。そのため、少しでも長く英語の環境に浸れるよう、日常的に英語に触れられる場を子どもに提供することが大切です。
冒頭でも述べたように、赤ちゃんは幅広い周波数を聞き分ける能力を持ち、日本語にはない英語独自の音を聞き分けることもできます。
そのため、アニメなどから耳にするネイティブスピーカーの発音やアクセントなどは習得にとても効果的です。ただし、人工的な音声だと、赤ちゃんは「生きていくのに必要ない周波数」と判断し、その能力をすててしまう可能性があるため、月齢が低いお子さんにはなるべく親御さんの肉声で英語の絵本の読み聞かせをするなど、赤ちゃんの脳に英語の周波数の刺激を与えるように工夫してください。
子供を英語と日本語に堪能なバイリンガルに育てたいと思われる親御さんは多くいらっしゃいます。
そのためにまず家庭でできることは、子供が楽しく英語を学べる環境を与えてあげることです。そして、「英語は楽しい」というモチベーションを子ども自身が保ち続けることが大切です。また、お子さんに自信をつけさせるためにも、成長を誉め、驚いてあげることが大切です。英語版のアニメを観る時でも、一人で観せるのではなく親子でいっしょに観て感想を言い合ったり、歌をいっしょに歌ったりしてアウトプットを促し、達成感を味合わせることもポイントです。
早期英語教育とは、主に0歳〜6 歳の間に始める英語教育のことで、脳が大きく発達する時期と重なります。そのため、小さい時から毎日英語に触れ合うことできれいな発音や会話を習得しやすくなります。
先に述べた各国の取り組み状況を見ても分かるように、今後は国際社会でより高い英語力が求められるため早期英語教育はますます盛んになっていくでしょう。
今回の記事を参考にして頂き、これを機会に早期英語教育にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
本コラムでは、世間で意見の分かれる早期英語教育についてメリット・デメリット含めてご説明しました。賛否両論ありますが、英語教育は早ければ早いほど子供の英語力は驚くほどのスピードで吸収していきます。迷っている方は、英語を楽しんで学べる環境にお子さんを連れていってみるのはいかがでしょうか?